第14次労働災害防止計画の解説

厚生労働省が策定した「第14次労働災害防止計画」は、2023年度から2027年度までの5年間において、国、事業者、労働者等の関係者が一体となって推進すべき労働安全衛生対策の指針です。近年、労働災害による死亡者数は長期的に減少傾向を示しているものの、休業4日以上の死傷者数は増加に転じており、特に高年齢労働者や中小事業場での災害が目立っています。

本計画では、「誰もが安全で健康に働くことができる社会」の実現を目指し、①死亡災害の撲滅を目指した対策、②高年齢労働者や外国人労働者の増加を踏まえた安全対策、③多様化する働き方に対応した健康確保対策、④メンタルヘルス対策や過重労働防止対策、⑤化学物質等による健康障害防止対策、⑥産業保健活動の推進、⑦事業場における安全衛生管理体制の強化、⑧社会全体での労働安全衛生意識の向上、という8つの重点事項を定め、労働災害の更なる減少と労働者の健康保持増進に向けた取組を推進していきます。

はじめに:労働災害防止計画の歴史と現状

労働災害防止計画の歩み

労働災害防止計画は、戦後の高度経済成長期に急増した産業災害や職業性疾病に対応するため、1958年に第1次計画が策定されました。以来、社会経済情勢の変化や技術革新、多様化する働き方に合わせて進化を続け、これまでに13次にわたる計画が実施されてきました。

この間、国・事業者・労働者等の関係者が一体となって安全衛生活動を推進した結果、日本の労働現場における安全衛生水準は飛躍的に向上しました。

昨今の状況

近年は労働災害による死亡者数が減少傾向にある一方で、休業4日以上の死傷者数はここ数年増加に転じています。特に、労働災害発生率が高い60歳以上の高年齢労働者の事故が増加しており、また全体の労働災害の大部分が中小事業場で発生している実態から、中小事業場を中心とした安全衛生対策の強化が急務となっています。

職場における労働者の健康保持増進に関しては、働き方改革への対応、メンタルヘルス対策、労働者の高年齢化や女性就業率上昇に伴う健康課題、治療と仕事の両立支援、さらにはコロナ禍で広がったテレワークなど、課題が多様化しています。これらの変化に対応した産業保健体制の再構築が求められています。

こうした現状を踏まえ、労働災害の更なる削減と、すべての労働者が安全で健康に働ける職場環境の実現を目指し、2023年度から5年間の国家戦略として「第14次労働災害防止計画」が策定されました。本計画では、国、事業者、労働者等の関係者が一丸となって取り組むべき目標と重点事項を明確に定めています。

計画のねらい:目指す社会と計画期間

誰もが安全で健康に働ける職場環境を実現するためには、安全衛生対策の法的責務を負う事業者や注文者だけでなく、労働者自身を含むすべての関係者が、それぞれの役割と責任を明確に認識し、積極的に取り組むことが不可欠です。同時に、消費者やサービス利用者においても、事業者による安全衛生対策の必要性を理解し、提供されるサービスの料金には安全衛生対策に必要な経費が含まれていることへの認識を深めることが求められます。

これらの安全衛生対策は、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ社会への対応はもちろん、DX(デジタルトランスフォーメーション)の急速な進展も考慮したものでなければなりません。労働者のプライバシーに配慮しつつ、その有効性を適切に評価した上で、ウェアラブル端末、VR(バーチャル・リアリティ)やAI等の先端技術を活用することが重要です。また、多様化する就業形態や個人の価値観の変化にも柔軟に対応できる安全衛生対策の構築が必要となっています。

労働者の安全衛生確保は事業者の基本的責務ですが、近年では「費用としての人件費」から「資産としての人的投資」への転換が進み、経営戦略の重要要素としてその位置づけが高まっています。安全衛生対策に積極的に取り組むことが、人材確保や企業競争力の向上にも直結するという認識が広がりつつあります。このような背景から、労働者の安全と健康に真摯に取り組む事業者が社会的に高く評価される環境を醸成し、より一層の安全衛生水準の向上を促進することが求められています。

最終的には、企業規模の大小、雇用形態、年齢層などにかかわらず、あらゆる働き方において労働者の安全と健康が確実に保障される社会の実現が目標です。これにより、多様な形態で働くすべての人々が、その能力と可能性を最大限に発揮できる社会基盤の構築を目指します。

計画の目標:アウトプット指標とアウトカム指標

国、事業者、労働者等の関係者が一体となり、「一人の被災者も出さない」という基本理念の実現に向けて、アウトプット指標アウトカム指標を設定し、計画期間内での達成を目指します。

アウトプット指標

本計画では、主に中高年齢女性の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進、高年齢労働者の安全確保、多様な働き方への対応、外国人労働者等の労働災害防止対策推進などをアウトプット指標として定めます。事業者は労働者と協力してこれらの指標達成に取り組み、国は指標を用いて計画進捗を評価します。

労働者の作業行動に起因する労働災害防止対策

  • 転倒災害対策(ハード・ソフト両面からの対策)に取り組む事業場の割合を2027年までに50%以上とする
  • 卸売業・小売業及び医療・福祉の事業場における正社員以外の労働者への安全衛生教育の実施率を2027年までに80%以上とする
  • 介護・看護作業において、ノーリフトケアを導入している事業場の割合を2023年と比較して2027年までに増加させる

高年齢労働者の労働災害防止対策

  • 「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)に基づく高年齢労働者の安全衛生確保の取組を実施する事業場の割合を2027年までに50%以上とする

健康確保対策の推進

  • 年次有給休暇の取得率を2025年までに70%以上とする
  • 勤務間インターバル制度を導入している企業の割合を2025年までに15%以上とする
  • メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を2027年までに80%以上とする

アウトカム指標

アウトプット指標の達成によって期待される成果をアウトカム指標として設定し、本計画の実施事項の効果検証に活用します。なお、ここに示す数値目標は本計画策定時の一定の仮定と期待に基づく試算であり、単純な数値比較による評価ではなく、事業者の取組(アウトプット)が成果(アウトカム)に繋がっているかを検証することが重要です。

アウトカム指標の達成により、労働災害全体については以下の成果が期待されます:

  • 死亡災害については、2022年と比較して、2027年までに5%以上減少させる
  • 死傷災害については、2021年までの増加傾向に歯止めをかけ、2022年と比較して2027年までに減少に転じさせる

本計画の実施状況は毎年確認・評価され、労働政策審議会安全衛生分科会へ報告されます。社会情勢や取組状況に応じて、必要な計画の見直しも適宜行われます。

安全衛生を取り巻く現状:死亡災害の発生状況

死亡災害については、平成27年に死亡者数が1,000人を下回って以降、継続的な減少傾向を示しています。令和3年の死亡者数は867人となり、業種別では建設業が288人と最も多く、次いで製造業が137人となっています。事故の型別に分析すると、建設業では高所からの「墜落・転落」による死亡が110人と最も多く、製造業では機械等による「はさまれ・巻き込まれ」が54人と最も高い割合を占めています。

第13次労働災害防止計画において重点対象として取り組んできた林業においても、令和3年の死亡者数は過去最少の30人となったものの、そのうち15人が伐木作業等における「激突され」によるものであり、依然として特定の危険作業に関連する死亡災害が高い割合を占めています。

このように、各業種特有の業務内容に起因する災害パターンが死亡災害の大部分を占めていることから、引き続き死亡災害の発生頻度が高い業種を重点対象として、業種別・作業別の特性に応じた効果的な労働災害防止対策を推進していくことが不可欠です。

事故の型全産業製造業建設業陸上貨物運送事業林業
墜落・転落21725110125
はさまれ・巻き込まれ1355427111
激突され621119615
交通事故(道路)129725370
合計8671372889530

業種、事故の型別死亡災害発生状況(令和3年)(死亡災害報告)

死傷災害の発生状況と対策の方向性

死傷災害については、第13次労働災害防止計画期間において継続的な増加傾向を示しています。令和2年及び令和3年は新型コロナウイルス感染症へのり患による影響も含まれていますが、その影響を除外しても死傷災害件数及び年千人率ともに明確な増加傾向が確認されています。

災害の内訳を分析すると、事故の型別では「転倒(23%)」と「動作の反動、無理な動作(14%)」が合わせて死傷災害全体の約4割(37%)を占める重要な要因となっています。業種別においては、第三次産業が全体の5割以上を占めており、その詳細を見ると「転倒(28%)」や「動作の反動・無理な動作(16%)」など、労働者の作業行動に起因する死傷災害が4割以上に達しています。

転倒災害の特徴

転倒災害の発生率は身体機能の影響を大きく受けるため、性別・年齢別で顕著な差異が見られます。男女ともに中高年齢層で発生率が高くなる傾向があり、特に女性の60歳代以上では20歳代と比較して約15倍という著しい差が生じています。このデータから、高年齢女性労働者における転倒災害の発生リスクが特に高いことが明らかになっています。

外国人労働者の状況

外国人労働者数の増加に伴い、外国人労働者の死傷者数も比例して増加傾向にあります。このため、言語や文化の違いを考慮した効果的な労働災害防止対策の強化が急務となっています。

さらに、労働災害発生率が高い60歳以上の高年齢労働者の増加、第三次産業における労働者の作業行動に起因する労働災害、そして安全衛生の取組が十分でない中小事業場における労働災害の増加という、三つの重要な課題が顕在化しています。

高年齢労働者は身体機能の低下等により労働災害に対する脆弱性が高まり、令和3年には60歳以上の高年齢労働者の休業4日以上の死傷者数が全年齢に占める割合が25%を超える結果となっています。また、高年齢労働者が被災した場合、若年層と比較して休業期間が長期化する傾向が明確に表れており、高年齢労働者が安全かつ健康に働ける環境整備が喫緊の課題です。

年齢別・経験期間別の死傷年千人率データからは、経験年数1年未満の労働者の死傷年千人率が、経験年数1年以上の労働者と比較して著しく高いことが判明しています。特に50〜59歳の年齢層では、その差が3倍近くに達しています。これらの事実を踏まえると、労働者数が増加傾向にある、または労働者の入れ替わりが頻繁に発生する第三次産業等において、体系的かつ効果的な安全衛生対策の強化が不可欠であるといえます。

死傷災害増加の要因とその対策

死傷災害の増加には複数の要因が絡み合っています。特に顕著なのは、労働災害発生率が高い60歳以上の高年齢労働者の増加です。さらに、第三次産業への就労者の増加に伴い、従来の機械設備等に起因する労働災害から、対策のノウハウが十分に蓄積されていない「労働者の作業行動」に起因する労働災害へとその性質が変化しています。

安全衛生の取組が十分に浸透していない第三次産業や中小事業場では労働災害が多発しており、その背景には厳しい経営環境等の様々な制約から安全衛生対策への取組が後回しにされている現状があります。また、直近の労働災害増加については、新型コロナウイルス感染症による生活様式の変化や、それに伴うデリバリーサービスと宅配需要の急増も無視できない要因となっています。

令和3年休業4日以上の死傷者数(事故の型別)の割合(%)

平成30年労働安全衛生調査(実態調査)によれば、安全衛生管理の水準低下を認識している卸売業・小売業の事業場では、その主な理由として「経営環境の悪化で、安全衛生に十分な人員・予算を割けない(29.0%)」、「正社員以外の労働者が増えたため、管理が難しくなっている(28.7%)」などが挙げられています。

世界的な原油価格高騰や物流コストの上昇、消費者・利用者へのサービス向上要求の高まりにより、製造業や物流業では少人数でより効率的・効果的に、短納期で業務を遂行することが求められており、これも労働災害増加の重要な要因と考えられます。

しかし、いかなる経営状況であっても安全衛生対策は最優先で取り組むべき課題です。今後は、企業が自社の人材を単なる「コスト」ではなく「資本」として捉え、安全衛生対策を含む教育や労働環境の整備を投資と位置づけることが重要です。このような人的資本の考え方に基づき、事業者と労働者が共に成長し価値を創出することが、経営強化や人材確保の観点からも企業にとって大きなメリットとなります。この認識が広まれば、事業者による自発的な安全衛生対策の推進が期待できるでしょう。

労働者の健康確保を巡る動向と対策の方向性

メンタルヘルス対策関係

令和3年労働安全衛生調査(実態調査)によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合は、労働者数50人以上の事業場では94.4%に達しています。一方、労働者数50人未満の小規模事業場では、30-49人規模で70.7%、10-29人規模では49.6%と低調であり、特に労働者数30人未満の事業場においてメンタルヘルス対策の実施率が著しく低い状況が続いています。

また、精神障害等による労災請求件数および認定件数は年々増加傾向にあり、職場におけるメンタルヘルス対策の重要性がさらに高まっています。

小規模事業場がメンタルヘルス対策に取り組んでいない理由

令和2年労働安全衛生調査(実態調査)によれば、労働者数50人未満の事業場がメンタルヘルス対策に取り組んでいない主な理由は、①該当する労働者がいない(44.0%)、②取り組み方が分からない(33.8%)、③専門スタッフがいない(26.3%)となっています。このことから、特に小規模事業場を対象とした具体的な取組方法の提示や専門的支援の充実が引き続き必要とされています。

過重労働防止対策関係

過重労働の防止については、働き方改革関連法の施行等により様々な取組が推進されてきましたが、こうした施策にもかかわらず、長時間労働による健康被害や過労死といった痛ましい事態が今なお続いています。効果的な過重労働対策の一層の強化と徹底が急務となっています。

産業保健活動関係

職場における労働者の健康保持増進に関する課題は多様化しています。メンタルヘルスや働き方改革への対応、高年齢労働者や女性就業率上昇に伴う健康課題、治療と仕事の両立支援、テレワークの拡大、化学物質の自律的管理など、多角的な対応が求められています。これらの変化に対応した効果的な産業保健体制の構築と活動の刷新が不可欠です。

週労働時間40時間以上の雇用者のうち、週60時間以上働く雇用者の割合は緩やかに減少し、令和3年には8.8%(労働力調査)となっています。しかし、依然として過重労働が原因で脳・心臓疾患を発症したとする労災認定事案が後を絶たず、時間外・休日労働時間の一層の削減が必要です。

年次有給休暇の取得率は増加傾向にあり、令和3年には58.3%(就労条件総合調査)に達しました。しかし、さらなる取得促進と取得しやすい職場環境の整備が求められています。また、勤務間インターバル制度の導入企業の割合も令和4年には5.8%(就労条件総合調査)と増加傾向にあるものの、労働者の健康保持と仕事・生活バランスの確保のため、この制度のさらなる普及促進が重要な課題となっています。

化学物質等による健康障害の現状と対策の方向性

化学物質の性状に関連する労働災害(有害物等との接触、爆発、火災によるもの)は年間約500件発生しており、近年においても減少傾向が見られません。注目すべきは、これらの災害が製造業だけでなく、建設業や第三次産業など幅広い業種で発生している点です。さらに憂慮すべきことに、特定化学物質障害予防規則等による個別規制の対象外となっている物質が、化学物質による労働災害全体の約8割を占めているという現状があります。

事業場における化学物質対策の実施状況を見ると、法第57条及び第57条の2に基づくラベル表示・SDSの交付義務対象外であっても、危険性または有害性等を有する化学物質に対する自主的な管理は十分とは言えません。令和3年時点で、これらの物質に対してラベル表示を実施している事業者は69.9%、SDS交付を行っている事業者は77.9%、リスクアセスメントを実施している事業者は66.2%にとどまっています。

今後施行される個別規制対象外の危険性または有害性等を有する化学物質に関する自律的管理規制の法令改正を見据え、事業者による自律的な化学物質管理体制の確立と定着が急務となっています。

また、2030年頃には国内の石綿使用建築物の解体工事がピークを迎えると予測されています。この状況下で、建築物等の解体・改修工事における石綿ばく露防止対策の一層の強化と徹底が必要不可欠です。

職業性疾病に目を向けると、じん肺所見が認められる労働者は減少傾向にあるものの、新規有所見労働者は依然として発生し続けています。熱中症については毎年20人以上もの労働者が命を落とすという深刻な状況が続いています。また、騒音性難聴の労災認定件数は長期的には減少しているものの、年間約300件という高い水準で推移しています。これら職業性疾病に対しても、より効果的な予防対策の推進が強く求められています。

事業者が自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発の重要性

誰もが安全で健康に働くためには、事業者や注文者が労働者の安全衛生対策に責任を持ち、労働者自身も含めた全ての関係者が自身の役割を認識し、真摯に取り組むことが不可欠です。このような安全文化を社会全体に浸透させる継続的な取組が必要です。一方で、意図的に安全衛生対策を怠り、労働災害を繰り返す事業者に対しては、罰則適用を含めた厳正な対応が求められます。

社会的評価と認知

安全衛生対策に積極的に取り組む事業者を評価

経済的インセンティブ

安全衛生対策への投資が経営にプラスに働く仕組み

意識改革と教育

安全衛生への理解促進と具体的取組の普及

事業者による自発的な安全衛生対策への取組が、経営強化や優秀な人材の確保・育成にも直結することを広く周知することが重要です。これにより、安全衛生対策が適切に評価される社会環境の整備を進める必要があります。具体的には、「労働災害発生状況」「労働安全衛生マネジメントシステム導入状況」「健康・安全関連の取組」などの人的資本投資の可視化を促進し、事業者自らが情報開示を行うとともに、その情報に基づく第三者評価や国による認定制度を通じて、取引先選定時に安全衛生対策に優れた事業者が優先される社会的理解を醸成することが効果的です。

中小事業場においては様々な経営課題がある中で安全衛生対策を優先的に実施できるよう、国による費用助成などの支援が有効です。また、新規事業立ち上げ時に国等が本計画の内容を周知すること、発注時に安全衛生面を損なうような条件を付さないこと、契約時に安全衛生対策経費を明確に確保することも重要な取組です。

さらに、大学等の教育機関においては、働く教職員等の安全衛生管理の一環として、学生に対しても実践的な安全衛生教育を提供することが望ましいです。これにより、学生が労働安全衛生に関するリテラシーを身につけ、卒業後の職場において自発的な安全衛生対策の推進者として貢献することが期待されます。

計画の重点事項と具体的取組:自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発

労働安全衛生環境の現状分析と今後の方向性を踏まえ、以下の8項目を重点事項として位置づけ、各項目について効果的な取組を推進します。

  1. 事業者の自発的な安全衛生対策への意識啓発と取組促進
  2. 中高年齢の女性労働者を中心とした作業行動起因の労働災害防止対策
  3. 高年齢労働者の特性に配慮した労働災害防止対策
  4. 多様な働き方や外国人労働者に対応した安全衛生環境の整備
  5. 個人事業者等への効果的な安全衛生支援策の展開
  6. 業種別特性を考慮した労働災害防止戦略の実施
  7. 労働者の心身両面にわたる健康確保対策の充実
  8. 化学物質等による健康障害の予防と適切な管理体制の構築

安全衛生対策に取り組む事業者が社会的に評価される環境整備

労働者の協力を得て、事業者が取り組むべき事項

  • 安全衛生対策と産業保健活動の本質的意義を深く理解し、適切な安全衛生管理体制を構築した上で、事業場全体で一体となって労働者の安全確保と健康増進活動に主体的に取り組む
  • 国や労働災害防止団体が提供する支援制度を積極的に活用し、労働安全衛生コンサルタントの専門知識を取り入れながら、自社の安全衛生活動の質を継続的に向上させる

国等が推進すべき施策

  • 安全で健康的な労働環境の実現には、事業者や注文者の責務履行に加え、労働者を含む全ての関係者が安全衛生対策における自身の役割と責任を自覚し、誠実に取り組むことの重要性を効果的に啓発する
  • 安全衛生への取組が企業価値として適切に評価される社会環境を構築するため、「安全衛生優良企業公表制度」「SAFEコンソーシアム」「健康経営優良法人認定制度」などの既存の評価・可視化の仕組みを戦略的に活用・促進する
  • 「人的資本可視化指針」の積極的な普及を通じて、企業における健康・安全関連指標の開示を促進し、投資家等のステークホルダーの適切な評価を可能にする

労働災害情報の分析機能の強化及び分析結果の効果的な周知

労働者死傷病報告の詳細かつ多角的な分析を実施し、災害原因の本質的要因をより深く解明するため、労働安全衛生総合研究所等の分析体制と能力の強化を図ります。同時に、労働災害統計の基礎となる労働者死傷病報告システムについて、災害発生状況や要因の正確な把握と効率的な分析が可能となるよう、先進的なデジタル技術を活用した改善を推進します。

安全衛生対策におけるDXの推進

事業者には、AIやウェアラブル端末等の最新デジタル技術を活用した効率的かつ効果的な安全衛生活動の実施が求められます。また、危険・有害作業の遠隔管理・操作や自動化による本質的な安全確保の推進も重要です。さらに、健康診断情報の電子的管理と保険者へのデータ連携を適切に行い、個人情報保護に十分配慮しながら、保険者と協働して年齢を問わず全ての労働者の疾病予防と健康増進を目指すコラボヘルスの取組を積極的に展開することが推奨されます。

労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進

転倒災害は、特に加齢による骨密度の低下が顕著な中高年齢の女性において極めて高い発生率を示しています。このリスクを適切に認識し、効果的な対策を講じることが急務となっています。事業者には、労働者の筋力維持と転倒予防のための運動プログラムの導入、スポーツ習慣化の推進、そして非正規雇用労働者を含むすべての従業員に対する入社時および定期的な安全衛生教育の徹底が求められています。

転倒防止のための運動プログラム

職場に筋力強化・柔軟性向上のための運動プログラムを導入することで、特に中高年齢の女性労働者の転倒リスクを大幅に軽減できます。日々の業務中に短時間でも定期的に実施することで、バランス能力の向上や骨密度の維持に効果的であり、長期的な転倒予防につながります。

介護・看護現場でのノーリフトケア

介護・看護現場におけるノーリフトケア(持ち上げない介護)の導入は、腰痛予防に顕著な効果をもたらします。適切な福祉用具や機器を活用することで、介護者の身体的負担を大幅に軽減しながら、同時に被介護者の安全確保と尊厳の維持を両立させることができます。

非正規雇用労働者への安全衛生教育

卸売業・小売業および医療・福祉の現場では、すべての従業員に対する安全衛生教育が不可欠です。特に勤務時間が限られている非正規雇用労働者に対しても、わかりやすく効果的な安全衛生教育を徹底することで、作業行動に起因する労働災害を未然に防ぎ、職場全体の安全文化を醸成できます。

国等の取組としては、安全衛生対策の不備がもたらす経済的・社会的損失を定量的に示すとともに、行動経済学的アプローチ(ナッジ等)を活用した事業者の自発的な取組を促進するための研究を進め、その成果を広く社会に普及させることが重要です。また、「健康経営優良法人認定制度」等の既存施策と積極的に連携し、具体的かつ実践的な転倒・腰痛防止対策メニューの提供と導入支援を行うとともに、最新の転倒防止装備・設備の開発と普及を促進するための補助制度の拡充も急務となっています。

さらに、すでに効果が実証されているノーリフトケア等の腰痛予防対策の普及を加速させるとともに、理学療法士等の専門職と連携した事業場単位での労働者の身体機能維持・改善プログラムを展開することが効果的です。また、スポーツ庁の「Sport in Life プロジェクト」と連携し、仕事と運動習慣の両立を促進することで、労働者の筋力・柔軟性の維持・向上を図り、職場内外での転倒リスクの総合的な低減を目指すことが重要です。

高年齢労働者の労働災害防止対策の推進

事業者には、「エイジフレンドリーガイドライン」に基づき、高年齢労働者の就労実態や身体的特性を十分に考慮した安全衛生管理体制の確立と職場環境の改善が求められています。特に転倒災害は高年齢労働者にとって重大なリスクであることを認識し、積極的な予防対策を講じることが重要です。さらに、健康診断情報の電磁的な保存・管理や保険者へのデータ提供を通じて、個人情報保護に配慮しながら保険者と連携し、年齢を問わず全ての労働者の疾病予防や健康増進を目指すコラボヘルスの推進も不可欠です。

安全衛生管理体制の確立

高年齢労働者の身体機能や健康状態の特性を正確に把握し、それに適した安全衛生管理体制を構築することが必要です。各職場において高年齢労働者の特性に応じたきめ細かなリスクアセスメントを実施し、個々の労働者に合った安全で健康的な労働環境を整備しましょう。

職場環境の改善

十分な照明の確保、段差の解消、手すりの設置などのハード面の改善に加え、作業手順の簡素化や作業スピードの適正化など、高年齢労働者が安全かつ効率的に働ける職場環境づくりを進めることが重要です。視認性の高い表示や休憩スペースの確保も効果的です。

健康づくりの支援

高年齢労働者の特性に配慮した健康管理と健康増進策を積極的に支援し、加齢による身体機能の低下を予防するための実践的なプログラムを提供しましょう。保険者との連携によるコラボヘルスの取組は、より包括的かつ効果的な健康支援を可能にします。

国等の取組としては、より多くの事業者が理解しやすい「エイジフレンドリーガイドライン」のエッセンス版を作成・普及させるとともに、「転倒防止・腰痛予防対策の在り方に関する検討会」での専門的知見を活用した効果的な転倒防止対策を推進していきます。また、特に取組が遅れている中小規模事業場に対しては、健康診断情報の電磁的な方法での保存・管理やデータ提供を含めたコラボヘルスを促進するための具体的な費用支援や技術的アドバイスを提供し、労働者の健康保持増進の取組を全国的に拡大していくことが重要です。

多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進

コロナ禍を契機としたテレワークの普及や副業・兼業の増加に伴い、事業者には新たな安全衛生上の責任が生じています。「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では自宅等でのメンタルヘルス対策や作業環境整備の具体策を、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では複数の事業場で働く労働者の健康確保措置を明確に示しています。また、増加する外国人労働者に対しては、言語や文化の違いに配慮した安全衛生教育の実施と効果的な健康管理体制の構築が不可欠です。

テレワーク時の健康確保

テレワーク環境では、適切な作業空間の確保(十分な照明、人間工学に基づいた椅子・机の配置等)、定期的な休憩(1時間ごとの小休憩等)、長時間労働の防止、計画的なオンラインコミュニケーションの実施が重要です。特に孤独感や過度のストレスによるメンタルヘルス不調を予防する体制構築が求められます。

副業・兼業時の健康管理

複数の事業場で働く労働者の過重労働防止には、労働時間の通算管理、健康診断結果の適切な共有、ストレスチェック結果の活用等が効果的です。事業者間の連携体制構築と同時に、労働者自身による主体的な健康管理を支援するツールやアプリの提供も重要な取組です。

外国人労働者の安全確保

外国人労働者の安全確保には、多言語による安全衛生教育マニュアルの活用、視覚的なピクトグラムを用いた危険表示、職場の安全ルールを母国語で説明した動画教材等が効果的です。また、日本の労働安全文化への理解促進と定期的なフォローアップ面談も災害防止に貢献します。

国等の取組としては、各種ガイドラインの継続的な周知に加え、デジタル技術を活用した健康管理ツール(労働時間、健康診断結果、ストレスチェック結果を一元管理するアプリ等)の開発・普及を推進しています。特に副業・兼業労働者が自身の健康状態を客観的に把握できるシステムの構築支援が重要視されています。

また、労働災害による脊髄損傷者への最新再生医療研究の推進、障害を持つ労働者の円滑な職場復帰支援プログラムの開発、バリアフリー職場環境整備の指針策定等も進められています。外国人労働者については、VR・ARを活用した体験型安全教育コンテンツの開発、国際標準化を見据えたピクトグラム安全表示システムの構築、多文化共生に配慮した職場づくりのモデル事例の普及等、包括的な安全衛生対策の強化が図られています。

個人事業者等に対する安全衛生対策の推進

労働者ではない個人事業者等の安全衛生対策については、「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」を通じて、業務上の災害実態の把握、個人事業者自らによる安全衛生確保措置、注文者等による保護措置のあり方など、包括的な対応策を検討することが重要となっています。

国等が取り組むこと

  • 有害物質による健康障害の防止措置を事業者に義務付ける法第22条関連の省令について、請負人や同じ場所で作業する労働者以外の者に対しても、労働者と同等の保護措置を講じることを事業者に義務付ける改正が行われました(令和4年4月公布、令和5年4月施行)。この省令内容の周知徹底を図ります。
  • 「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」での議論を通じて、個人事業者等の業務上災害の実態把握、自主的な安全衛生確保措置、注文者等による適切な保護措置のあり方について具体的な検討を進めていきます。

個人事業者も含めた安全衛生対策の普及・促進は、労働災害防止の観点から極めて重要です。特に請負契約などで就業する方々の安全と健康を確保するためには、注文者等による適切な保護措置や必要な情報提供が不可欠となります。

個人事業者の増加やギグワーカーなど就業形態の多様化が進む現代社会において、労働者とは異なる立場で働く人々の安全衛生確保は社会的責任として重要性を増しています。今後は、詳細な業務上の災害実態調査を基に、個人事業者自身による安全対策と注文者側の保護責任の両面から、効果的な安全衛生確保策を構築することが求められています。

特に注目すべきは、有害物質を扱う作業環境における法改正です。請負人や同一作業場で働く非労働者に対しても、労働者と同等の保護措置を事業者に義務付ける改正が実施され、その周知徹底が進められています。この取り組みにより、雇用形態を問わず、すべての就業者に対する有害物質からの健康障害防止対策が強化され、より安全な作業環境の実現が期待されています。

業種別の労働災害防止対策の推進:陸上貨物運送事業対策

陸上貨物運送事業における労働災害は、その約7割が荷役作業時に発生しています。特にトラックからの墜落・転落による重篤な災害が数多く報告されており、事業者には「荷役作業における安全ガイドライン」に基づく体系的な対策の実施が求められています。具体的には、適切な安全衛生管理体制の構築、効果的な墜落・転落防止措置の導入、保護具の確実な着用、そして荷主と連携した包括的な安全対策の推進が不可欠です。

また、長時間の運転や重量物の取扱いによる腰部への負担は、運送業における重要な健康リスクとなっています。「職場における腰痛予防対策指針」を踏まえ、作業特性に応じた具体的かつ実効性のある腰痛予防策を講じることも重要な課題です。

安全衛生管理体制の確立

効果的な荷役作業の安全管理には、明確な責任体制と具体的な作業手順の策定が不可欠です。荷主企業と運送事業者の緊密な連携により、作業環境の改善と安全意識の向上を図ることが重要です。

墜落・転落防止対策

トラック荷台からの墜落・転落は重篤な災害につながります。安全な昇降設備の設置、作業床の確保、適切な手すりの設置などのハード対策と、安全帯の確実な使用などのソフト対策の両面からの取組みが必要です。

腰痛予防対策

荷役作業時の腰痛リスクを軽減するため、パレットや台車などの補助器具の積極的活用、作業姿勢の改善指導、適切な休憩時間の確保を推進します。作業前のストレッチも効果的な予防策となります。

安全衛生教育の実施

災害事例を活用した実践的な教育により、作業者の危険予知能力を向上させることが重要です。定期的な再教育と、新技術や新しい安全対策に関する最新情報の提供も欠かせません。

国や関係機関の取組みとしては、荷役作業の実態を踏まえた「荷役作業における安全ガイドライン」の周知徹底を強化するとともに、荷役機械の安全な使用方法に関する技術的指針の策定を進めています。また、荷主事業者の敷地内で発生する労働災害防止のため、荷主と運送事業者の責任分担の明確化や協力体制の構築を促進する取組みも重要です。

さらに、腰痛予防対策の高度化に向けて、人間工学的な視点から作業環境や作業方法を分析し、科学的根拠に基づく効果的かつ実行可能な対策を選定・普及させる取組みも進められています。これらの総合的なアプローチにより、陸上貨物運送事業における労働災害の大幅な減少を目指します。

業種別の労働災害防止対策の推進:建設業対策

建設業における労働災害防止対策として、事業者は墜落・転落災害を防止するため、危険箇所への確実な囲いや手すりの設置、墜落制止用器具の適切な使用、はしご・脚立の安全使用の徹底など、高所作業における安全確保策を確実に実施することが不可欠です。また、これらの対策と併せて、墜落・転落リスクの体系的な評価と対策立案を含むリスクアセスメントの実施が効果的です。

さらに、建設現場特有の健康リスクである熱中症や騒音障害から労働者を守るため、「職場における熱中症予防基本対策要綱」に基づく暑さ指数(WBGT値)の定期的な測定と、その数値に応じた具体的な予防措置の実施が求められます。同様に「騒音障害防止のためのガイドライン」に沿った作業環境測定の実施、定期的な特殊健康診断の実施、効果的な労働衛生教育の提供など、総合的な健康障害防止策の展開が重要です。

墜落・転落防止対策

建設業の死亡災害の約4割を占める墜落・転落災害を防止するため、足場の日常点検と定期点検の確実な実施、一側足場の使用条件と範囲の明確化、安全帯(墜落制止用器具)の正しい選択と使用方法の徹底など、包括的な対策の強化が急務となっています。

デジタル技術の活用

建設現場の安全性向上と労働負担軽減のため、国土交通省と連携し、AI・IoT技術を活用した危険検知システム、ドローンによる高所点検、遠隔操作建機の導入など、最新デジタル技術を活用した建設施工の自動化・自律化・遠隔化に関する安全基準と普及促進策の検討を進めています。

熱中症対策

屋外作業が多い建設現場では熱中症リスクが特に高いため、作業現場ごとの暑さ指数の継続的な測定と記録、適切な休憩場所(冷房設備付き)の確保、定時の水分・塩分補給タイムの設定、作業時間の適切な管理(特に高温時の作業制限)など、体系的な熱中症予防対策の徹底が生命を守る鍵となります。

騒音対策

建設機械や工具による高レベルの騒音から労働者の聴力を保護するため、「騒音障害防止のためのガイドライン」に基づく定期的な騒音測定の実施、最新の防音保護具(電子式イヤーマフなど)の適切な選択と着用指導、騒音の少ない機械・工法の採用促進、作業時間の分散など、騒音暴露を最小化する総合的対策が求められます。

国等の取組としては、「建設業における墜落・転落防止対策の充実強化に関する実務者会合報告書」の提言を踏まえ、足場の組立・解体時を含む全工程での安全点検の義務化、一側足場の使用条件の厳格化と代替安全措置の明確化など、より実効性の高い墜落・転落災害防止対策の法令整備と現場への浸透を図っています。また、建設のデジタル化推進に向けて、国土交通省との省庁横断的連携により、AI・IoT技術を活用した施工の自動化・遠隔化に伴う新たな安全リスクの評価と対策基準の策定を進めています。

さらに、頻発する地震、台風、豪雨等の自然災害被災地における復旧・復興工事では特殊な危険が伴うため、二次災害防止のための特別安全対策の徹底を図るとともに、「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律」に基づき、国土交通省と厚生労働省の緊密な連携体制のもと、中小建設事業者や一人親方を含むすべての建設工事従事者の安全と健康を確保するための実効性ある施策を総合的に推進しています。併せて、「職場における熱中症予防基本対策要綱」や「騒音障害防止のためのガイドライン」の周知・指導を強化し、建設現場特有の健康リスクから労働者を守るための取組を加速させています。

業種別の労働災害防止対策の推進:製造業対策

製造業における労働災害防止対策には、「はさまれ・巻き込まれ」等による事故リスクが高い機械等に対する体系的なアプローチが不可欠です。効果的な安全管理のためには、製造者(メーカー)および使用者(ユーザー)の双方が責任を持ってリスクアセスメントを実施し、連携して労働災害防止に取り組むことが重要です。「機械の包括的な安全基準に関する指針」に基づき、製造者は設計・製造段階で特定された残留リスク情報を使用者に明確かつ詳細に提供することが求められます。これにより、使用者は現場の状況に応じた適切なリスクアセスメントを実施することが可能となります。さらに、最新技術を活用した機能安全の導入により機械等の安全水準を向上させ、効率性と安全性を両立させる合理的な代替措置を積極的に推進することが求められています。

リスクアセスメントの実施

製造者と使用者双方によるリスクアセスメントの徹底

リスク情報の共有

残留リスク情報の確実な提供と共有

機能安全の推進

機械等の安全水準向上と合理的な安全対策の実施

国等の取組としては、製造業で使用される機械等について、急速な技術革新に対応するため、国際的な安全規格との整合性を確保しながら、各種安全基準(ボイラー構造規格等)の適時適切な見直しを実施しています。また、作業現場における安全意識の向上と危険予知能力を強化するため、仮想現実(VR)技術の効果的な活用方法とその安全要件についての研究開発も進められています。

さらに、高度な機能安全を備えた先進機械の導入を促進し、人の手による危険作業を信頼性の高い自動化技術で代替することにより、作業者の労働災害リスクを根本から低減する取組を積極的に推進しています。これらの総合的なアプローチにより、機械による「はさまれ・巻き込まれ」などの重篤な労働災害を効果的に防止し、製造現場の安全性を抜本的に向上させることを目指しています。

業種別の労働災害防止対策の推進:林業対策

林業における労働災害防止対策として、「伐木等作業の安全ガイドライン」および「林業の作業現場における緊急連絡体制の整備等のためのガイドライン」の周知徹底が不可欠です。これらに基づいた安全な伐倒方法やかかり木処理、適切な保護具の着用、緊急時の連絡体制整備、通信機器の配備、そして体系的な教育訓練の実施が強く求められています。

特に労働災害が多発している小規模事業場においては、立木伐倒時の安全措置やかかり木処理時の禁止事項の徹底が急務です。下肢を保護する防護衣の着用義務化や木材伐出機械等の安全対策も確実に実施すべきです。各ガイドラインに基づく措置が確実に講じられるよう、関係事業者への積極的な周知活動を展開し、実施状況を継続的にモニタリングしながら効果的な安全対策を推進していくことが重要です。

安全な伐倒方法とかかり木処理

  • 受け口、追い口の適切な作成と確実な切り残し
  • かかり木処理における禁止事項の徹底
  • 伐倒の際の適切な退避方向と距離の確保

適切な保護具の着用

  • ヘルメット、防護ズボン等の保護具の確実な着用
  • チェーンソー防護用保護具の使用徹底
  • 滑り止め機能を有する安全靴の着用

緊急時の対応体制整備

  • 作業現場の位置情報の把握・共有
  • 通信機器の確実な携行と通信環境の確保
  • 救急搬送経路の事前確認と周知

国や関係機関の連携強化も重要な取組です。林野庁、地方公共団体、労働災害防止団体等との定期的な連絡会議の開催、労働災害情報の共有、合同パトロールの実施などを通じて、各機関が一体となった安全対策を推進します。また、発注機関との連携を強化し、労働者の安全と健康確保のために必要な措置を確実に講じる体制を構築することが求められています。

林業は山間部での作業が多く、厳しい自然環境下で行われるという特性上、災害発生時の迅速な救助・搬送体制の整備が生命を守る鍵となります。GPS技術の積極的活用、信頼性の高い通信環境の整備、救急医療機関との連携強化など、多角的なアプローチで林業労働者の安全を確保する体制づくりを進めていくことが必須です。

労働者の健康確保対策の推進:メンタルヘルス対策

メンタルヘルス対策において、事業者はストレスチェックを単に実施するだけでなく、その結果を活用した集団分析を行い、職場環境の具体的な改善につなげることが極めて重要です。このような包括的アプローチにより、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐ効果が高まります。また、職場におけるパワーハラスメントをはじめとする各種ハラスメントは深刻なメンタルヘルス不調の原因となるため、「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」に基づく積極的な防止対策の実施も不可欠です。

ストレスチェックの実施

全ての労働者を対象とした質の高いストレスチェックを定期的かつ確実に実施し、個々の労働者のストレス状態を適切に評価する

集団分析の実施

ストレスチェック結果を部署、職種、年齢層等の切り口で多角的に分析し、組織全体のストレス傾向と課題を明確に把握する

職場環境の改善

集団分析で特定された課題に対して、労働時間、業務量、職場コミュニケーション等の具体的な改善策を策定・実施する

効果検証と継続的な取組

実施した改善策の効果を定量的に測定・評価し、PDCAサイクルを回しながら持続可能なメンタルヘルス対策を組織文化として定着させる

国等の取組としては、産業保健総合支援センターと地域産業保健センターを通じて、特に人的・財政的リソースが限られている小規模事業場に対するメンタルヘルス対策支援を強化しています。具体的には、専門家による無料相談、研修会の開催、訪問支援などを通じて、小規模事業場特有の課題に対応したサポートを提供しています。また、複数の小規模事業場が共同でメンタルヘルス対策に取り組むことを促進するため、事業協同組合、商工会、商工会議所等が会員事業場に産業保健サービスを提供する際の財政的・技術的支援の仕組みも整備しています。

さらに、ストレスチェックと集団分析の質と実施率を高めるために、事業者が容易に利用できる無料のストレスチェックプログラムの提供と活用促進を行うとともに、メンタルヘルス対策を経営戦略として位置づける「健康経営」の視点も重視しています。メンタルヘルス不調による休職・離職の防止、プレゼンティーイズム(出勤しているが心身の不調により生産性が低下している状態)の解消、人材確保・定着率向上など、メンタルヘルス対策の経営的メリットを数値化して可視化し、経営層の意識改革と積極的な取組を促進しています。業種・規模別の効果的な取組事例を広く共有し、各職場の実情に合ったメンタルヘルス対策とハラスメント防止対策の普及・定着を図っています。

労働者の健康確保対策の推進:過重労働対策

過重労働対策として、事業者は「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」に基づき、時間外・休日労働時間の削減、労働時間の適切な把握、健康確保措置の実施、年次有給休暇の確実な取得促進、勤務間インターバル制度の導入など、労働時間等設定改善指針に沿った改善策を積極的に実施することが求められます。また、長時間労働により医師の面接指導対象となる労働者に対しては、医師による面接指導や産業保健スタッフによる相談支援を積極的に受けるよう働きかけることが重要です。

長時間労働者の割合

週労働時間60時間以上の雇用者の割合(令和3年)

年休取得率

年次有給休暇の取得率(令和3年)

インターバル導入率

勤務間インターバル制度を導入している企業の割合(令和4年)

国等の取組としては、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」を基本とした長時間労働削減施策を推進し、長時間労働が疑われる事業場への監督指導の徹底や「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の周知と指導を継続的に実施することが挙げられます。

さらに、令和6年4月より時間外労働の上限規制が適用される医師、建設業従事者、自動車運転者等については、働き方改革推進のための関係法律整備法及び関連法令の改正内容について、きめ細かな周知・指導を行うことが重要です。特に、脳・心臓疾患による労災支給決定件数が多い運輸業・郵便業においては、改正後の自動車運転者の労働時間等改善基準の徹底指導に取り組むとともに、医師については「医師の労働時間短縮等に関する指針」に基づいた労働時間短縮の取組を継続的に推進することが必要です。

また、長時間労働者への医師による面接指導が適切に実施されるよう、制度の意義と必要性について効果的な周知方法を検討し、事業者の理解促進に努めることが重要です。「過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究」の成果を活用した業種別・職種別の具体的防止対策の策定と普及にも積極的に取り組んでいきます。

労働者の健康確保対策の推進:産業保健活動の推進

産業保健活動を効果的に推進するため、事業者は各事業場の特性に応じた産業保健スタッフを適切に配置し、労働者に必要な産業保健サービスを提供することが重要です。また、産業保健スタッフが専門性を高められるよう、継続的な研修機会を確保する体制整備も不可欠です。治療と仕事の両立支援においては、支援を必要とする労働者が円滑に利用できるよう、労働者自身や管理監督者向けの研修実施などの環境整備に積極的に取り組むことが求められます。さらに、産業医や保健師に加え、医療機関や支援機関の両立支援コーディネーターを積極的に活用することで、より効果的な支援体制を構築することが重要です。

国等の取組としては、変化する産業現場のニーズに対応するため、「産業保健のあり方に関する検討会」を通じて、産業保健関係者の役割分担と連携強化、保険者との効果的な協働、小規模事業場向けの実践的な産業保健活動モデルなどを重点的に検討しています。また、健康経営の視点を取り入れた産業保健活動の具体的な効果やメリットを可視化し、経営層の理解と積極的な関与を促進するための啓発活動も強化しています。

産業保健活動の基本的取組

  • 産業医、保健師等の産業保健スタッフの戦略的配置と効果的な連携体制の構築
  • 定期健康診断の確実な実施と科学的根拠に基づく事後措置の徹底
  • 長時間労働者に対する面接指導の計画的実施と健康リスク低減
  • メンタルヘルス対策の体系的推進(ストレスチェック実施、集団分析活用、職場環境改善)
  • 個別性を重視した治療と仕事の両立支援の積極的展開
  • 保険者と連携したデータ活用型コラボヘルスの推進

小規模事業場における産業保健活動

  • 地域産業保健センターの機能を最大限活用した専門的支援の獲得
  • 商工会、事業協同組合等を通じた効率的な産業保健サービスの提供体制構築
  • 健康診断の確実な実施と結果データの戦略的活用
  • 産業保健総合支援センターが提供する多様な支援プログラムの積極的活用
  • オンライン相談等のデジタル技術を活用した質の高い遠隔産業保健サービスの利用促進

「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の効果的な普及啓発を事業場、医療機関、労働者それぞれに対して戦略的に展開するとともに、「両立支援コーディネーター」の活動実績と成果を詳細に分析し、より効果的な配置と活用方法を確立することが求められます。

産業保健総合支援センターと地域産業保健センターを通じた中小事業場への支援をさらに充実させるとともに、事業協同組合、商工会、商工会議所等が会員事業場にメンタルヘルス対策を含む包括的な産業保健サービスを提供する際の財政的・技術的支援の仕組みを体系化し、地域全体の産業保健水準の底上げを図ることが重要です。

化学物質等による健康障害防止対策の推進:化学物質対策

化学物質による健康障害防止には、製造、取扱い、譲渡・提供に関わる全ての事業者の適切な対応が不可欠です。化学物質を製造する事業者は、製造工程におけるリスクアセスメントの実施とその結果に基づくばく露低減措置を自律的に講じる必要があります。また、譲渡・提供時には、必要な保護具の種類を含む「想定される用途及び当該用途における使用上の注意」を明記したラベル表示・安全データシート(SDS)の交付が義務付けられています。一方、化学物質を取り扱う事業者は、入手したSDS等の情報に基づき、適切なリスクアセスメントとばく露低減対策を実施することが求められます。

リスクアセスメントの実施

化学物質の危険性・有害性を正確に評価し、適切なばく露防止対策を講じることは安全管理の基本です。事業者は職場で取り扱う全ての化学物質について、体系的なリスクアセスメントを実施し、その結果に基づいた継続的な管理体制を構築する必要があります。

国等の取組

  • 化学物質管理者育成のための充実した教材開発と専門的講習の提供
  • 業種別・作業別の具体的な化学物質ばく露防止対策マニュアルの整備と普及
  • 中小事業者向けの専門相談窓口の設置、現場訪問による実践的指導、人材育成機会の拡充
  • 各都道府県における化学物質管理専門家リストの整備による専門知識へのアクセス改善
  • 労働安全衛生総合研究所化学物質情報管理研究センターによる最新の科学的知見に基づく技術支援

個別規制の対象外となっている化学物質についても、危険性または有害性が認められる場合は、今後施行される自律的管理規制に関する法令改正に基づき、適切な管理が求められます。特に、法第57条及び第57条の2で義務付けられていない化学物質であっても、危険性または有害性を有する全ての物質について、ラベル表示、SDS交付、リスクアセスメントを徹底することが、化学物質による労働災害防止には不可欠です。

効果的な化学物質管理の自律的実施には、専門知識を持った人材の計画的育成と外部専門家の戦略的活用が重要です。国としては、質の高い化学物質管理者講習プログラムの開発支援、中小事業者に対する実践的な相談体制の整備、現場に即した訪問指導の実施、継続的な人材育成の機会提供など、多角的なアプローチで事業者の自律的な化学物質管理体制の構築を支援