国際安全規格(ISO等)準拠の必要性と対応の全体像
国際規格への準拠が求められる理由およびメーカーが取るべき対応を、想定市場の国内外を問わず包括的に示すものです。

はじめに:なぜ今「国際規格準拠」が求められるのか
今日の製造業では、機械の設計段階から国際的に整合した安全規格を取り入れることが不可欠となっています。これは単なる輸出要件ではなく、製品の信頼性向上、事故リスクの低減、顧客や監督機関への説明責任の遂行といった観点から、国内市場でも標準化が進んでいるためです。
たとえば以下のような具体的なケースがあります:

- 設計品質の確保:リスクアセスメント報告書や安全制御設計が整備されていれば、品質保証や第三者審査でも設計妥当性を証明しやすくなります。
- 説明責任の履行:事故時における原因調査やPL訴訟リスクの際、ISO準拠の技術文書が“合理的な安全設計”の根拠となります。
- 取引信頼性の向上:グローバル顧客や国内大手ユーザーが、ISO 12100や13849をベースにした安全要求を調達基準に含める例が増加しており、仕様適合の条件となっています。
ISO規格体系の構造:A・B・Cの分類とその活用
国際規格(ISO)は、その適用範囲と内容に応じて以下のように分類されます:
- タイプA規格(基本原則):機械安全の設計原則やリスク評価の全体構造を定める(例:ISO 12100)
- タイプB規格(共通安全対策):多くの機械に共通する安全機能や設計手段を規定
- B1:安全距離・人体接触防止(例:ISO 13857, ISO 14120)
- B2:制御系の安全・電気安全(例:ISO 13849, IEC 60204-1)
- タイプC規格(個別機械対応):特定機械に対するリスク特定と具体的な安全要求(例:ISO 16089)
この体系は日本国内のJISにも整合しており、A→B→Cの順での適用確認が設計の基本フローです。
なぜ日本国内でも国際規格が重視されるのか
以下の観点から、国際規格は国内対応の中でも極めて重要な意味を持ちます:
① 国内法と国際規格の構造的整合
- 労働安全衛生規則の別表第1~第5により、設計者が考慮すべき危険性や有害性の種類、採用すべき本質的安全設計方策、保護装置やガードの設置基準、非常停止やエネルギー遮断といった付加保護方策、さらには使用説明や残留リスクの情報提供といった要求事項までが網羅的かつ体系的に定義されています。これらはISO 12100を中心とした国際規格と整合し、国内法と国際規格が相互に補完しあう構造となっています。
- ISO 12100の「リスク特定 → リスク低減 → 残留リスクの情報伝達」という設計原則と構造的に一致しています。
② 現行の構造規制との連携
- 労働安全衛生法施行令により、プレス機や研削盤など多数の機械に対して安全装置や覆いの構造規定が明記され、設計段階からの考慮が法令上求められています。
③ 政策としての国際規格準拠推進
- 第14次労働災害防止計画において、ISO等の国際規格の導入が明示されており、設計品質の底上げが政策的にも後押しされています。
・製造業で使用される機械等について、技術の進展に対応するよう、国際的な安全規格と整合を図る等、安全基準(ボイラー構造規格等)の見直しを行う。
引用:厚生労働省 第14次労働災害防止計画 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197308.html
④ 実務的な標準化の進行
- 自動車・電機業界では、製造装置の仕様にISO規格準拠が組み込まれる(もしくは事実上組み込まれる)場合があり、ISO非対応の設計では入札・採用されない例も少なくありません。
※補足:米国市場ではULやCSAなどNRTL認証(ANSI/NFPAベース)、中国ではISOに準拠したGB規格での審査・運用など、地域によって適用される規格体系が異なる場合があります。
国際規格準拠のメリット
✅ 顧客や当局からの信頼性向上
✅ 事故時の責任説明力向上(合理的設計証明)
✅ CE・KCs・BIS等の海外規制対応が容易に
✅ 社内教育・レビュー体制の標準化に寄与
✅ 大手顧客との取引・入札での優位性確保
国内法とISO 12100との対照表(整合性の可視化)
日本国内の法令構成(労働安全衛生規則) | 主な内容 | 対応する国際規格例 |
---|---|---|
別表第1 | 危険性・有害性の分類 | ISO 12100「リスク特定」 |
別表第2 | 本質的安全設計(除去・強度・安定性等) | ISO 12100「リスク低減」 |
別表第3 | 安全防護(覆い、ガード、検知装置) | ISO 13857、ISO 14120等 |
別表第4 | 非常停止・拘束解除などの付加保護 | ISO 13850等 |
別表第5 | 使用上の情報・表示・残留リスクの伝達 | ISO 12100「情報提供」 |
法令上の構造規制対象例
以下の機械は、労働安全衛生法施行令別表第一の三により具体的な構造要件が明記されています:
- 動力プレス、油圧プレス
- 動力シャー
- 研削盤(グラインダー)
- 金属切断機、高速カッター
- 木工用丸のこ盤、かんな盤
- ベルトコンベヤ、破砕機、洗浄機
- 鋳造用設備、ショットブラスト機など
安全設計責任の時代における国際規格の価値
設計の自由度が高まる一方で、「どのようにリスクを特定し、どのような安全設計を施したか」を示す説明責任は日々強まっています。
ISO 12100・13849・60204-1等に基づく合理的な設計方針・保護手段・制御設計・文書化ができてはじめて、顧客・監督官庁・事故時対応・訴訟リスクに備える体制といえます。
関連資料リンク(参考)
- 厚生労働省「第14次労働災害防止計画」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197308.html
- 労働安全衛生法施行令 別表第一の三(構造規制対象機械一覧) https://www.jaish.gr.jp/horei/hor1-48/hor1-48-36-1-4.html
- 労働安全衛生規則 別表第1〜第5(設計要件の詳細構成) https://www.jaish.gr.jp/horei/hor1-48/hor1-48-36-1-5.html#beppyou_01
- 厚生労働省 公開資料「国際規格準拠対応について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001116307.pdf
- 中央労働災害防止協会(中災防)安全設計・リスクアセスメント資料集 https://www.jisha.or.jp/
(※この後の章では、国際規格に準拠した機械安全設計の実務ステップ、各フェーズで参照すべき主要規格、また当社による支援サービスの具体例について詳しく解説していきます)